前回からのつづき

期間工わいレクサスディーラーで脂汗


「予約しているとろといいます。」


「とろ様お待ちしておりました。」


ここは空港か?と錯覚するような、首元をスカーフでつつんだフライトアテンダンス風の女性が受付で深く会釈した。

「こちらへどうぞ。」

上品な笑顔で高そうなソファーへと私を導いた。

すぐに彼女は注文したお茶を運んできて、

白い大理石であろう固いフロアーに両膝をついて、美しい所作でお茶を差し出した。

(これがレクサスのおもてなしか!)

いつも工場詰所のうす汚い長椅子に座っている私は、高級ソファーの上では居心地が悪く、貧乏ゆすりがとまらなかった


日本茶を飲んで底が見え始めたころ、今度は30代半ば位の背の高い 、東山紀之似のイケメンが2階から降りてきて私に近づいてきた。

私は反射的にソファーから飛びあがった。

「SCのYと申します。とろ様本日はお待ちしておりました。」

「SC?? サービスの方ですか?」

「ははっ、レクサス販売店ではセールスマンのことをセールスコンサルタント、略してSCと申します。」


説明と同時に質感のいいレザーのカード入れから名刺を取り出し、両手でスマートに差し出してきた。

私は片手で受取り

レクサスのロゴ
親指の油カスがつまった
黒い不衛生な爪先がかかった。

そして内容を確認せずに、
ズボンの後ろポケット
無造作に差し込んだ。

その瞬間、

東山SCの顔が曇ったのを感じた。


たわいのない雑談から職業の話になり、

私はこう答えた。

「ホ○ダで車両検査員の仕事をしています。」

(当時はホ○ダ埼玉製作所(狭山)で組立ライン工をしていた)

なぜかいつもシャバで職業を聞かれると、検査員と見栄を張っていたのだ。

「ホ○ダの方が他社メーカーにお乗りになっても大丈夫なんですか???」

「えっ、ええ、まあぁ。。」


見る見るうちに
東山SCの顔が不信感でうめつくされ、

「では、少々お待ちください。」


と言い捨て、

先程の受付嬢のところにそそくさと行き、なにかコソコソと話してから階段を上がっていった。

それ以降、

東山SCと会うことはなかった。

すぐに受付嬢が何も聞いてないかのような顔で近づいてきた。

「こちらへどうぞ」

私は形のいいおしりをチラチラ見ながら後ろからついて行った。

外?

外?

RXは??

外?


2人は外の、

レクサス認定中古車

という看板の前に立っていた。

「年式世代のちがう認定中古車のRXが4台ほどございますので、1台1台ご紹介させていただきます。」

(中古じゃなくて、新車見に来たんだよ。新車!)

(金ならあるんだよ。金なら。)


そう心の中で叫んでいるのを打ち消すかのように、彼女はたんたんと車の説明をした。

いかんせん横文字がおおすぎて
英検4級の私をもっても
説明はチンプンカンプンだった。

そもそも車メーカー期間工をしているくせに車自体に興味なく知識もなかった

そのうち2台ほど黒いRXを選び、実際にハンドルを握らせてもらった

コミコミ13万中古アルトしか乗ったことのない私にとって、

レクサスRXはボーイングのコックピットに座っているかの錯覚をするくらい全てがキラキラしていた

これに乗って、

優越感を味わいたい!

女にモテたい!

と妄想を膨らませていた時、

「ではとろ様、私は週末イベント用意がございますので一旦中に入りますが、なにか御用があればお気軽にお申し付けください。」

彼女は丁寧に会釈をし、途中から小走りでショールームに消えて行った。

彼女を見るのもそれが最後だった。


ポツんっとひとり取り残された私は、


ブーーン、ブーーーンと、

子供のようにハンドルを左右に動かし、上体を前後にゆらせた。

しばらくしてハンドルを握る手は震え、体にも伝染してきた。

ズボンの上にポタポタと冷たいものを感じた。


(こんな俺でも金はあんだよ、金は。。)


期間工なめんなよ。。

なmんなょぉ ぉ






小学生の頃、

父親についていったパチンコ屋で、

「ここでどこにも行かず待ってろ」


と外の自転車置き場で日が暮れるまで待たされた寒い日を思い出した。

その時と、

同じ涙の味だった。




後日談

結局、身分不相応なレクサスにはきっぱり別れを告げ、街の小さな中古車店で3年落ちの「ハリアー」を購入するにとどまった。

(期間工仲間からはハリアーでも身分不相応とたしなめられたが、、)

納車から6日後

大きい車とバックモニターに慣れない私は、

駐車場のブロック塀のでっぱりバックで激突した。


車両保険をケチった私から、

諭吉が26枚

北の空へと飛んで行った

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